アジア太平洋地域は、世界のビューティ&パーソナルケア市場をけん引する存在であり、世界全体の市場価値の30%以上を占めています。このように規模が大きい一方で、2024年から2029年にかけて同地域の成長率は3%と予測されています。その中でも中国、日本、韓国といった主要市場は、それぞれ異なる消費者行動、ブランド戦略、イノベーションの方向性を示しており、市場ごとに適したアプローチの重要性が浮き彫りになっています。
中国:「リセッショングラム」とローカルブランドの復権
2025年の中国市場では、「リセッショングラム(Recession Glam:日本語に訳すと「節約ビューティ」)」が美容・パーソナルケア業界を形成する主要トレンドのひとつに位置づけられています。消費者はより価値重視の姿勢を見せており、美容への支出が抑えられる中で、より慎重で計画的な購買行動へと移行しています。
2024年の中国の美容・パーソナルケア市場は、継続するマクロ経済の不透明感の影響を受け、実質ベースで2.2%減の750億米ドルに縮小しました。一方で、機能性や価格の手ごろさ、ブランドへの信頼といった要素を軸に展開するカテゴリでは堅調な動きも見られ、市場の逆風に対して一定の耐性を示しました。
中でも「ダーマコスメ(Dermocosmetics)」は2024年に3.1%の成長を記録し、注目を集めています。ComfyやCeraVeといったブランドは、臨床的な効果が実証された製品を手頃な価格で提供することで、消費者から支持を獲得しています。
また、ローカルブランドも競争環境の再編をけん引しており、価格の手ごろさに加えて、品質への評価も高まりを見せています。Proyaは2019年以降、約4倍の成長を遂げており、科学的な研究開発と機動力のあるデジタルマーケティングがその成長を後押ししています。Winonaは、専門家による処方を通じて、敏感肌向け製品の信頼性を高めています。
日本:プレミアムフレグランスと臨床スキンケアが主役に
日本の美容・パーソナルケア市場は、2024年に実質ベースで1.1%の成長を記録し、280億米ドルに達しました。マス向け製品の成長が横ばいの中で、市場の価値成長をけん引しているのはプレミアムカテゴリ、とくにフレグランスとダーマコスメです。
これまで日本ではニッチとされていたフレグランス市場が、近年急速に拡大しています。プレミアムフレグランスは2019年から2024年にかけて年平均成長率(CAGR)6.7%と高い成長を見せており、自分へのご褒美や高級なショッピング体験への関心の高まりがうかがえます。
Jo Malone Londonはこの変化を象徴するブランドのひとつです。原宿の旗艦店では、受話器を取ると波の音とともにシーソルトの香りを感じられる電話機のオブジェや、パーソナライズできるギフトサービスなど、五感を通じた香りの世界を演出しています。さらに、三越伊勢丹の「サロン・ド・パルファン」やZOZOTOWNの限定ミニ香水セットといった小売チャネルの取り組みも、消費者の関心を高め、フレグランスを魅力的なギフトカテゴリーとして定着させています。
また、日本の消費者の間では、臨床的に効果が証明されたスキンケアへの関心が高まっており、「肌管理」という考え方が浸透しつつあります。見た目に変化が現れる、科学的裏付けのある製品を選ぶ傾向が強まっており、そのトレンドを反映しているのがMedidermaやLalaskinといったブランドです。Medidermaは糸リフト(スレッドリフト)から着想を得たマイクロニードル美容液を展開しており、Lalaskinは美容治療から着想を得たグルタチオン配合ミストで注目を集めています。
日本の消費者の41%がスキンケア購入時に「臨床的に裏付けされた効果」を重視
出所: ユーロモニターインターナショナル「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ビューティサーベイ(2025年)」
韓国:ダーマコスメの躍進と製品イノベーション
韓国の美容・パーソナルケア市場は2024年に実質ベースで1.8%成長し、130億米ドルに達しました。中でも急成長を見せたのが、ダーマコスメとプレミアムフレグランスの2つのカテゴリです。どちらも「効果実感」や「自己投資」といった消費者の価値観の変化を反映しています。
ダーマコスメは2024年に13%という目覚ましい成長を遂げました。科学的根拠に基づいた実感型のソリューションを求める消費者が増加していることが背景にあります。Aestura、Physiogel、Medicubeなどの急成長ブランドは、手頃な価格帯で効果的な製品を提供し、支持を広げています。
このトレンドを背景に、Kビューティ発のダーマコスメブランドは、海外企業による買収対象としても注目を集めています。L'Oréalによる2024年のDr.G買収は、同社がすでにダーマコスメの強固なポートフォリオを持っていたにもかかわらず、韓国市場での存在感強化を狙った戦略的な動きといえます。
また、韓国では美容医療や美容外科的施術が広く受け入れられていることもあり、PDRNやエクソソームなど、従来は施術でしか使われなかった有効成分が、スキンケア製品の開発において次なるイノベーションを牽引しています。
アジア太平洋市場における最新の美容市場トレンドを詳しく知りたい方は、現在オンデマンド配信中の無料ウェビナー「2025 Asia Pacific Outlook: Beauty Trends & Opportunities(2025年 アジア太平洋の美容市場トレンドと成長機会)」をご覧ください。また、世界の美容・パーソナルケア市場をより詳しく分析したい方は、レポート『World Market for Beauty and Personal Care』も併せてお読みください。