アジア太平洋地域の乳製品業界は、人口動態の変化とコンシューマーヘルス関連カテゴリーとの競争激化により、大きな転換期を迎えています。
2025年から2030年にかけて、世界の乳製品小売市場における売上増加分の26%はAPAC地域が占めると見込まれており、その金額は189億米ドルに相当する。
出所: ユーロモニターインターナショナル
こうした環境下で長期的に競争力を保つのに、ブランドが注力すべきことは二つ。一つは、乳幼児期からの予防的な健康づくり。そしてもう一つは、30歳未満の消費者層との関係性強化です。
2030年までに、アジアの30歳未満の人口の半数以上が6つの新興国に集中すると予測されています。そのため、こうした市場で早い段階から消費習慣を形成することが、ブランドロイヤルティや継続的な消費につながります。粉ミルク需要が落ち着きを見せる中、乳製品ブランドは、より年齢の高い子ども、10代、若年成人へとターゲットを広げつつあります。
予防的健康を軸にした栄養のパーソナライゼーション
肥満率の高いマレーシア、インドネシア、タイ、シンガポールでは、体重管理への関心が高まっています。アジア太平洋地域の主要8カ国では、消費者の3人に1人が過体重または肥満である一方、2025年時点で93憶米ドルの体重管理市場のうち、乳製品が占めるのはわずか13%。これは、大きな成長機会を意味します。
ユーロモニターが実施したライフスタイルサーベイによると、若年層ほど体重管理への意欲は強く、タイのZ世代の55%が「体重を減らしたい」と回答しており、これはZ世代の世界平均の48%を上回ります。消化機能やエネルギー、筋肉維持をサポートする予防的な乳製品は、成長期の健康的な習慣づくりを後押しし、成人後の体重管理にも役立ちます。心血管系の健康、骨・関節のサポート、スキンケアといった身体機能に関するカテゴリーも、今後の成長が見込まれています。さらに、アジア太平洋地域ではタンパク質摂取量が世界平均を下回っており、高タンパク乳製品はこのギャップを埋める有力な選択肢となるでしょう。
肌と髪の健康も、アジアのウェルネスにおいて重要な位置を占めています。2025年には、消費者の約4人に1人がこれらを優先課題としており、アジア太平洋地域における美容市場の小売売上高を占める割合は57%。これは世界平均の42%を大きく上回る数字です。コラーゲン、ビタミンC、亜鉛を配合した乳製品は、インナービューティ習慣をサポートします。コラーゲン入り乳製品や、ビオチンを強化した植物由来代替品といった新製品は、栄養と美容を融合させたいというニーズを反映しています。
一方で、高い栄養価と味わいや嗜好性の両立は難題です。添加物を極力減らしたいというクリーンラベル志向や健康志向の拡大がありながら、若者向け飲料の革新的な商品は多くのケースでカラフルな色使いや高いカフェイン値など、気分の向上が強い訴求力を持っています。Z世代の45%が「今を楽しむこと」を、55%が「自分の時間をもっと大切にすること」を重視しています。乳製品は、原料由来の高い栄養価を活かし、味わいや栄養価を損なわずに楽しめるカテゴリとして、メンタルウェルビーイング領域での拡大が期待できます。
若年層との接点づくり
アジアの平均世帯人数は3.4人と、北米や西欧よりも多いのが特徴です。多世代同居の家庭が多いことは、乳製品を家族全員で使える健康ソリューションとして定着させるチャンスです。子どもの栄養不足の解消から大人の将来的な健康課題の予防まで、家族全体のニーズに応えるポートフォリオが求められています。特にフィリピンのように世帯数が増加している市場では、幅広い世代に価値を届けることが重要になります。
教育やフィットネスの現場も、消費行動に影響を与えています。多くの若者は20代まで学校や大学に通っており、スクリーン時間の増加に伴い、眼の健康や集中力を支える成分への需要も高まっています。一方で、親の16%は「学校に健康的な食事の選択肢が少ない」と感じ、29%は「食事を自宅外でとるこが多い」と回答しています。
こうした背景から、学習中や運動時に適した乳製品へのニーズが生まれています。アジアの15~29歳の約3分の1が週1~2回の運動をおこなっており、世界で最も高い水準をマークしています。プロテインパウダーなどを含むスポーツ栄養市場は57億米ドル規模で推移しており、専門ブランドが主流ですが、乳製品は「自然由来のタンパク質」「持ち運びやすさ」「シンプルな原材料」といった強みを活かして勝負することが可能です。
アジア太平洋のプレエイジング層に対応する戦略
今後の戦略は、乳幼児だけでなく、小児、10代、20代後半の社会人へと広がっていきます。出生率が低下する中、若年層へのアプローチは、乳製品カテゴリーの持続的成長とロイヤルティ創出に欠かせません。特に20代後半は、独立した世帯を持ち、家族としての生活習慣を形成し始める重要な時期です。
2030年に向けて、機能性イノベーションは加速し、臨床的な根拠を持つ成分や、より明確なエイジングケア訴求が増えていくでしょう。消化、認知、免疫といった健康要素を統合的に捉えるアプローチが、タンパク質強化や肌・髪のケア領域と結びつき、性別に捉われない「包括的ウェルビーイング」というメッセージへと進化していきます。
日本の乳製品メーカーにとっての成長機会
日本の乳製品ブランドは、研究開発力を武器にすることができます。特に、菌株レベル・成分レベルでの機能性訴求は大きな強みです。例えば、明治の研究所は6,500種類の乳酸菌株を保有しているとされ、機能性食品開発に長年取り組んでいます。
心の健康に関する訴求も、大きな可能性を秘めています。ストレス軽減に加え、睡眠や腸内環境の改善を訴求する「Yakult 1000」は、その好例です。アジアの若年成人の約6割が心の健康を重視しており、レジリエンス(回復力)は健康長寿を支える重要な柱となっています。
コンシューマーヘルス分野との競争が激化する中で、成功のカギは人口動態や消費者行動の変化を先読みすることです。早期からの予防的健康、パーソナライズされた栄養、機能性イノベーション、そして異なる年齢層の家族全体を視野にいれた戦略に投資するブランドこそが、長期的な影響力を築くことができるでしょう。
詳細はレポート「Revitalising Dairy in Asia: Pre-Ageing Nutrition for Healthy Longevity」をご覧ください。